第3話 あなたはCOOL?それともHOT?    岩井笙韻

いけません!まじめにスタートしてしまったら、どんどん内容を続けなければならない気になってきました。どうも、苦しくなってきます。これでは散歩にはならないように思います。だから、閑話休題のように行きましょう。どこかで又元の問題に触れてきます。
 では、今回はこんな風に。
 何かを表現するときに、様々なタイプがあります。猛獣のように爆発するタイプ。底知れず沈んで周囲には真空のような静寂が漂うタイプ。あなたはどちらでしょうか?
 この違いはスポーツを見るとよく分かります。
まず、極めつきのホット。
 写真家の篠山紀信が、珍しくオリンピックを撮影したときの話です。100メーター走を撮ることになったらしい。しかし、普段と違って対象がとてつもなく早い。それで結構苦労したという話の後で、何人もの走者にインタビューしたというのです。
 どんな走者が勝つのか?と。
すると、皆似たようなことを言う。身体能力では皆同じようなものだという。しかし、違いが生じるのは、自分の恐怖心に打ち勝てるかどうかなのだという。恐怖心?何の?
 それは、スタートして、50メーターほど走ったときに、走者ははっと我に返って、自分があまりの猛スピードで走っていることに恐怖心を抱くのだそうです。変な話だけれど、自分でも信じられないスピードで走っている。「うへえ、こんなに速く走っている!!」。 で、そこで恐ろしくなってスピードを緩めてしまったら負け。その恐怖心に打ち勝って突っ走ったものが勝ち。特に優勝するようなものは、ゴールを切って、周りから祝福の拍手を浴びている事でやっと自分に気がつくくらい自分を振り切ってひたすら進む者だそうです。自分の考えどころか感情まで振り切って走る!(笑い話:この文章をパソコンで打っているときに、次のように打ってしまいました。「勘定まで振り切って進む!」。)
 すごい話ですね。「芸術は爆発だ!」という岡本太郎の言葉を思い出します。スポーツも爆発だ!

 それで今度は正反対のタイプ。
 スピードスケートの清水宏保。彼はスケートの選手としてはとても小さい。小さい頃から喘息を持ち、それを治すこともあってスケート始めたらしいのですが、それとは別に、「そんな小さくては、とても大きい選手にはかなわない。」と言われたのが腹が立って、それで猛然と練習に励んだと言います。
 彼の練習には独特のものがいくつもありますが、まず、<ロケットスタート>。つまり、小さい者は出だしは良いので、それをもっと有利に展開するために、誰にも負けないスピードを急激に出す訓練です。
 さてその為にはどうしたらいいか?
まず、風の抵抗を最小限に食い止めるために、極端な前傾姿勢をとる。しかし、やってみると、邪魔な物があって、ある角度以上にはなれない事に気づく。
 邪魔な物?なんだそれは?
         答えは胃袋と肝臓!
 その為に、清水はとんでもないことを思い立つ。筋肉を鍛えて、前傾姿勢をとったときに、胃と肝臓をあばら骨の中にしまい込んでしまえばいいと言うアイデアです。それで実際、動くはずのない筋肉を随意筋に仕立て上げる。その姿勢があのスタイルです。
 次に、<蹴りの意味>。又難しいことを言うようですが。要するにこういう事です。清水と一緒に練習に励んだ何とかという選手がいて(彼も日本では本当に一流ですが)、その彼が言うには、同じ練習をしているが、自分は絶対に清水には勝てないんだという。どうしてかと尋ねると、例えば、屈伸運動を何百回か繰り返すとする。500回でも良いです。すると、自分は単に数えて500回をこなすのが精一杯だ。しかし、清水はその一回一回に全て意味を持たせているのだという。例えば、220回まではそのくらいの力でどこに力を入れ、それを超えたら支点を移動させる、とか。
 その事は、コーナーワークにも言えることで、このコーナーを回るには、どのような蹴りをどの位置でどの角度で、何回行う、と言う具合に、全て意識の元で行っているという。こんな事は誰にも出来ることではないのだそうです。
 清水は、絶好調の時を次のように言っています。
その日、一年に二三度あるかないかの調子が上がっていると思えることがある。その時には、出番を待っているときから、自分が卵の殻に包まれたような感じになり、周囲の音は全く聞こえなくなる。そしてその静寂の中でリンクを見ると、氷の上に金色のラインが見える。そのラインを一ミリも踏み外すことなく滑れれば、それが優勝なのだ、と。はずしたら、負けを意味する。
 どうですか。ここまで意識的に携わると言うことは!
さて、あなたはどっち?なんて言ったって、開いた口がふさがらないというもの。
 それでホット派とクール派と戦ってどちらが勝つか?、と考えてしまいたくなります。
 それは実は間違った問いなのです。正解は、勝つ者は、意識しながら猛獣になる者です。言い換えれば、完全にホットでありながら、それを見るクールな目を持ち続ける者、と言うことになります。
 それはそうでしょう。本当に我を忘れてしまったら、勝負の過程は完全に見失ってしまうから、反省する余地などはありません。どんなに、100メーター走の選手がホットであっても、実は些細な事まで意識には上っているのです。
 逆に、いくら清水選手がクールであっても、体はホットになりきっているのです。
 一言で言うと、


    自分に客観性を持てるかどうか?


と言う問題になるようです。
 では、書ではどうでしょうね。手本を通して、ある程度の型が分かると、暴れるように書くことも出来ます。実際、私が見た中国人は目にもとまらないスピードで書いていました。しかし、それでも、基本をはずしているようには思えなかった。逆に、基本が身に付いているから奔放に書けるのだと思います。
 そうなると、やはり、基本を身につけるにも、手本を見取り、模写するにも、又その結果を自分で判定するにも、この<客観性>が問題になるのではないでしょうか。
 客観性には面白い問題があります。

 

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