第30話 私の選ぶ名著・名品1『白川静』松岡正剛著 岩井笙韻

題名がグリーンの時は、私が独断と偏見で選んだ名著名品、中には曲や人物まで入り込む可能性が。どんなものでも、人でも、景色でも、幽霊でも出会いは出会い。これを読まれtいる方にもおもしろそうなもの、参考になりそうなもの、頁をめくっただけで怖くて眠れなくなりそうなもの、いかがわしくて目が離れないものなど、思いついたものは掲載します。

 さて第1回目は今、予想外に売れている新書の一冊。白川静氏は昨年96歳でなくなられた、文化勲章受賞の漢字学者。何しろ、90歳を超えて、その探求心の旺盛さは若い者の遙か上を行き、日々の心得として「年中無休」と答えたというのだからスゴイの一言。

 私は篆書、特に古い方の金文が好きなのには理由があります。そこには甲骨文から始まり、まだ文字が命を持っていた時代の息吹があるからです。なんと言っても、文字を扱うと言うこと自体、王や巫女さんくらいしか許されていなかった。そこで、文字を金石に刻むと言うことは、重要な神事の一つなので、彫る者は大変位が高かったわけです。

 しかし、昔の金文の解読に関しては、諸説があって中国でも決定版はなく、まして日本では総合的な文字の解読は今世紀に入っても出来てはいませんでした。

 ところが小学卒から丁稚奉公を経て、出発する、およそ学者としては破天荒な経歴を持つ白川静が、ノーベル賞に値すると言われるほどに、中国を始め、世界中の評価を経て、世界一の漢字学者と言われるほどになるのです。

 本屋さんに言って、辞書売り場で『字統』と言う辞書を一度ごらんになったらいい。漢字一つ一つの由来が何千文字にわたって書かれています。まず大抵引き込まれてしまう。私の場合でも、詩文を金文に直すときに、この辞書は必携のものです。後の時代になればなるほど、漢字の数は増えていくので、金文にない文字も多く、そのようなときには自分で金文を創作しなければなりません。そんなときにこの『字統』が必需品となるのです。

 でも、そんなことでなくても面白いですよ。例えば、


<道>という文字にはどうして<首>がついているのか?

答  戦に勝った軍隊がその勝利を表すのと、進む道を清めるために戦に負けた部族の首を掲げてそれをお祓いにしながら進んだから。


びっくりしますね。こんな具合に楽しいのですが、なんと言っても、この白川先生、二十歳の頃に、万葉集と詩経を一緒に呼んだという豪傑なので、90歳になるころには膨大は著作を残しています。平凡社から出ている全集が30巻以上。私も数冊は持っていますが、まだ10冊は買うとしても、生きているうちに全部読みそうもないので、全巻を買おうとするといつも自分で渋ってしまうのです。

 ところが博覧強記の松岡正剛が、この全集に目を通して、白川静の全仕事を一冊の新書にまとめ上げてしまった!なんと恐ろしや。そしてこの本の面白いこと。松岡正剛という人はこれまたあらゆるジャンルに精通していて、良寛から全宇宙史に至るもで何でも語る人。その読書量の膨大さは、荒俣宏と良い勝負か?なんと言っても松岡正剛は自分のことを<編集者>と呼ぶくらいなので、どんな情報でも編集して解りやすく我々に提示してくれる。そして、今回の『白川静ー漢字の世界観』も非常に良いです。白川静の生い立ちから、その世界観に至るまで非常にうまく解説している。特に圧巻は、中国の呪術がかった時代の知識を元に、万葉集、柿本人麻呂の歌を解読するあたり(勿論、白川静が解読していることを、解りやすく見せてくれるのだが)。

 書を学ぶものは必見。書体の移り変わり、その元にある漢字の生い立ちは必要な知識です。780円。安いよ!!



追伸

松岡正剛はネット上で『千夜千冊』という書評を公開している。これが又すごく、毎日一冊の書評、一人の作家は必ず一冊のみ。それが千冊分貯まったので、それを又内容別に編集して出版したものを見た!これが平凡社の百科事典くらいある。しかも約十万円!実はこれも欲しい。その中には恐らく表題の千冊以外にも参考文献として何倍もの本の内容が書かれているはず。ちなみに私がその千冊の中で何冊読んでいるか数えたら(数えやすいように千夜千冊の虎の巻という、解説の又解説書まである)、125冊だった。まだまだだな。しかし、私だけの選択もあるからどう考えるべきか。

 

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