第13話  悪について 岩井笙韻

ここからは、全く別の話になります。ある意味では大変な迷路にはまりこみます。
端的に言いますと、芸術に関しては、<美醜>が問題になりますが、ここでは<善悪>を問題にしたいのです。特に、



    



です。
 芸術作品の中には悪を扱ったものがあります。悪と言ってもいつもいつも平和な市民に意地悪をするような悪党は初級の悪党。勧善懲悪の物語に出てくるのはこういう初級の悪党。初めは意地悪が成功して、わっはっはっと笑っていますが、そのうちにウルトラマンや仮面ライダーが出てくると負け戦。しかし、こういう<悪が正義に負ける>仮面ライダーの世界は底が浅くて子供でもすぐに飽きてしまいます。
 問題なのは本当に悪だかなんだか分からないようなもの。正義のつもりで動いていたら知らぬ間に悪に染まっていたとか、人間の心に潜むどろどろとしたものとも通底する、一言で手放しに正義だとは言えないようなもの、こんなものが問題なのです。推理小説の好きな方にはすぐに分かるでしょう。横溝正史の物語、例えば『八墓村』や『犬神家の一族』には、血の因縁に操られ、自分の善悪の意志よりも大きな力に飲み込まれていく人間が描かれています。そう言うときにその該当者は悪人と言えるでしょうか?
 又、悪が醜い姿をしていれば問題は少ないのですが、吸血鬼も結構美女が多く、妖怪もきれいなことが多いものでして、善悪と美醜がスクランブルしてくると簡単な問題ではないことが分かります。
 はたまた、これに好奇心というようなものが加わるともっと大変。誰が見ても明らかにおぞましくエロティックな絵画を部屋に掛けてあったら、毎日見ている気にはならなくなるでしょうが、屋根裏部屋にあるとちょっと覗いてみたくなる。こっそり読むマルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』は(現代のサディズムはもっとすごいが)当時の世界ではたまらなく面白かったに違いない。
 又、ムードたっぷりのカフェに、ムンクの『さけび』があったらどうでしょう。静かに眠りにつこうとして寝室に入ったら、煌々と照らされた壁にピカソの『泣く女』がかかっていたら・・・。しかし、ムンクやピカソが悪だとは思えない。?!?!
 絵画や写真、文学には不穏な要素がたっぷりあります。これは、前にも言いましたように、芸術というものが人間の無意識に宿る、不合理な部分を表現するときに起こることなので、いずれ又バタイユでも引用しながらお話しするときがあると思いますが(バタイユ!聞いたアとのない人は是非覚えておいてください。今世紀最大の思想家変人鬼神の一人。三島由紀夫がこよなく愛し、著作の名前も『太陽肛門』などという恐ろしげな題名をつけたりしながら、長い間地味な図書館員であったという不気味な人。乞うご期待!)、では、そのほかのジャンルではどうでしょうか?
 音楽に悪の音楽というようなものがあるでしょうか?悪人だけを満足させるような音楽があるでしょうか?あまり聞いたことはないですね。逆に歴代の悪人が無類のクラシックマニアだったと言うことはあるようです。
 私は最近、と言っても二年前くらいですが、たった一つ<悪の音楽>を聞きました。それはあの『スターウォーズ エピソード3』の中でのこと。どのシーンかを説明するのには又三十分ほどかかってしまうのでこちらも又次回かその次くらいに説明します!と言うことは音楽でも悪の音楽というものがないわけではないと言うことですね。
 それでは書に関してはどうでしょうか?



    悪の書



そんなものがあるでしょうか?
 悪人が書いたからと言ってそれが悪の書とは限りません。あくまで出来上がったものは作者を引きずっていない見方ができます。五木寛之が自伝のようなもので語っていましたが、お母さんを死に追い込んだ極悪非道のロシア兵が歌う歌が、心を揺さぶられるほど素晴らしかった、と言うこともあるのです。
 さてそう言われると、<悪の書>というようなものに該当するものは見つかりませんね。内容もひどく見にくく、見るからに醜い書を掲げて喜んでいる人を見たことがありません(見る目がないという場合を除いては)。これは一体どういう事でしょうか?
 実はここに、書が他のジャンルの芸術と異なる点があるように思えるのです。書は悪を表現できないのでしょうか?あるいは、書は悪をも浄化して表現してしまう(?)のでしょうか?それとも書はその深みにおいては人の心の奥を表現するもので、人の心の奥には仏性のようなきれいなものしかないと言うことを示しているのでしょうか?
 私の考えでは、この<悪>についての考察がないと宗教も芸術も片手落ちになることが間違いありません。次回から本格的に悪について、哲学的心理学的経済人類的宗教的趣味的な考察を行っていきます。(なかなかもどってこられないような・・・。)

 

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